開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

井伏鱒二「朽助のいる谷間」を読む

野々市公民館の読書会の3回目だったかの時、井伏鱒二の「朽助のいる谷間」という短編をみんなで読んで感想を述べあった。前回の石川淳よりは温かい気持ちになれて、この国民的作家の一人に馴染むことができてよかった。

井伏鱒二村上春樹と同じように弱者の立場で書いている。からゆきさんが海外に出て行った時代の、ハワイ移民の朽助が帰国して、同じく帰ってきた混血の美少女の孫と谷間の村に住むことになり、そこがダム工事で沈む時の薄幸の人生の一コマを描いている。主人公は20代後半のほぼ作者自身で幼少の頃に朽助に育てられている。

朽助に立ち退きを承諾させるために訪問し、同泊するうちに混血の美少女タエトに淡い恋心を抱くが見破られ、手を握ったことは手相を見るためだったように体裁を取り繕ってなんとか朽助への面目を保つ、クライマックスもあり読ませる作品になっている。最後はタエトに朽助の落胆からの面倒を託していて、若者への作者の信頼を表していて明るく終わっている。それは黒い雨を読んだ時の「明るさ」に通じると思った。

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