開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

「老人と海」を読む

この本を読むのは2回目である。このような有名な小説を1回目読んだのが確か40歳も過ぎての頃だったように思う。本好きな人だったらおそらく中学か高校あたりにまず最初に出会うような本だ。それを中年になって読み、また60歳を過ぎた高齢者の仲間入りをする頃になって読み直すというのは、いかにも遅すぎるように思われる。

しかし62歳になって読んで初めてこの小説の深い味わいが分かるのではないかと思う。まだ老人というには早すぎる自分ではあるが、ぼくはここ数年味わったことのない読書での感動を経験した。スペイン内戦に参加したこともあるヘミングウェイが、孤独にキューバの海で巨大なカジキマグロと格闘する老人を描く時のリアルさには、戦闘の実体験者としての経験が出ているように感じた。いかにもそれは生死を賭けた闘いであり、カジキマグロにも自身の肉体(脳も含む)にも戦士の資格を与えようとする気高い男のロマンを感じさせる。たしかに男の老境入り口の苦い人生への愛着というものが乾いた文体で物語られている。小説には珍しく女は登場しない。(わずかに最終場面にひとりの女が旅行者としてほんの数行登場するだけだ)

男の人生は戦争(世界大戦という総力戦以前の)と共にあるのが輝くのだと言いたげなヘミングウェイだが、相手を可哀想に思う正直さも隠さない。これも戦後文学の一つなのだろうか? 

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