ぼくは石川県の野々市市というところに住んでいる。金沢市の隣で2、3年前に市に昇格した「伸び盛りの」街には最近できた立派な図書館がある。広い芝生を前にした道路側がほとんど全面ガラス張りの窓になって明るい室内になっている。どちらかというと子供連れの若いお母さん向けにできている。金沢市の図書館は3箇所あるが、どこも大人と子供は分けて作られているのに対して、ここは同じ空間内にあり、そのせいもあって明るいのかもしれない。入ってすぐに高齢者に占拠されているような印象にはならない。そこの一室で我が野々市市住民10名で読書会が行われた。50代女性一人を除いてぼくよりご高齢の方々がメンバーであり、なんと30年以上続いているとのことで、ぼくは参加して一年と三ヶ月になる。課題本はメンバーが順番に選ぶことになっていて、前回はぼくの番で「ハムレット」を選んだ。今回は山本一力の「グリーンアップル」という短編だった。どちらかというと後者の方が課題本の平均的な水準を示している。時代小説家で直木賞作家の山本一力の、珍しいアメリカの現代を描いた短編である。小説中の今は2015年になっている。ぼくはあらすじをまとめて言うのが面倒くさくて、この短編もうまくまとめられない。
主人公はトムという男でイラク戦争に志願して参加している。身長が168センチしかなく仲間はビックマックと呼んでからかっていた。実家はアリゾナ州セリナというところで客室10室のインを経営していた。9.11があると客が減り、経営感覚ある弟に引き継がせて自分はニューヨークに出てくる。インでは料理を作っていたので小柄な彼は炊事部隊に配属となる。4ヶ月の訓練ですぐさまバクダッドに派遣される。戦車3両が先導した隊の最後尾の7台のトレーラー(弾薬、燃料が5台、食料、冷蔵庫等に2台)に彼は乗っていたが、イラク政府軍の戦闘機が来るとわかると降りて塹壕を掘りそこで待機することになる。敵はわざわざ正面から攻めない、一番手薄なトレーラーを狙う。戦車が一番安全で炊事部隊が一番危ないのは考えてみれば当然かもしれない。弾薬、燃料が入ったトレーラーが爆破され彼は塹壕の中で気絶していた。、、、このようにあらすじを書こうとすると延々と続きそうなのでやめる。とにかくごく普通に日常から戦場まで行くのであり、現代の戦争は日本の先の戦争もののような死と隣り合わせの緊迫感がない。赤紙が来るのを待つ間に死を覚悟するような精神性は感じられない。むしろ除隊後、イラク戦争は間違いとする世論から、特に若い女性から血の匂いがすると毛嫌いされて居場所がない思いをすることになる。戦争に志願するのはインの客に感化されたのと、働き口が見つからず高給な軍隊に行く方が9.11以後の報復一大キャンペーンにのっかるような自然な流れだった。その自然な流れが曲者だと日本にいるぼくは思うのである。