開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

自分史1

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中学3年の夏休み、地方都市にいて遊ぶことを知らずに職人の家庭で育ったぼくは、不良仲間の誘いにはのらず、ストイックに勉強する習慣の中で過ごすしかなかった。親は日曜もなく働きづめだったので、結果的な放任主義に任せられた。たしか主要5教科の夏休み中の分厚い受験強化参考書を1冊買って、毎日勉強していたと思う。その甲斐あってかその後の成績はどんどん上がって、高校志望校は上方修正された。そしてクラス上位3位以内が許される志望校を受験して合格した。

合格するとストイックに勉強する習慣を自ら捨てて、世界文学全集を読みふけった。その時ぼくは生まれたまま自然に成長してきた純朴な自我というものを失った。少年の殻が壊れて、生まれた街を出て、見知らぬ世界にどんどん引き込まれていった。その当時の世界文学全集の世界とは、ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、ロシアのことだった。そこにはアジアやアメリカやアフリカはなかった。

高校2年の後期になってとうとう乱読がたたって授業についていけなくなった。その頃にはドストエフスキーの「悪霊」を読むような、小さな「政治」青年になってデモに参加することもあった。ただそれは何かに憑かれたようにやっていたように思える。決して確信があって行動してたわけではない。心は虚ろで満たされるものはなかった。

10日ほど登校拒否をしていた。最初の危機が訪れていた。その当時は危機の自覚はなく、ただ現実から逃れようとばかりしていた。とにかく何も考えずに休みたかった。担任の西能先生には同情されて心配をかけてしまった。たしかどこかの空いた教室で二人で話し合ったように思う。先生はぼくを一人の人間として扱ってくれた。どこかで先輩というか同志というかそんな感じがあり、優しい目ではあったが力のこもった眼差しだった。君が考えたくはないのならぼくからは何も言うことはない、とおっしゃった。本当はぼくと議論したかったのかもしれないと後年振り返ることがあった。