開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

星野リゾート奥入瀬渓流に二泊する

昨年10月に妻がぼくより2年7か月遅れて定年退職し、夫婦揃っての二泊の旅行は予てから計画していたことだった。行き先は妻の希望で奥入瀬渓流にし、ホテルはぼくの希望で星野リゾートにした。定年後の旅行というと幸せな人生コースの典型のような、ありふれたお決まりのコースのように感じていたが、いざ自分がその番になってみるとなんだか他人の幸せを消化しているような物足りなさを終わってみると感じた。これはぼくの感じたことで妻は満足していたようだった。少なくとも妻は旅行中家事からは解放されるし、奥入瀬は短大時代に友達と行くことになっていたのがお母さんの病気で急にキャンセルになった経緯もあって、ようやく果たしたやりたいことだった。

昨年一緒に上高地にドライブで行った時にはそれなりに楽しかったのだが、今回は新幹線を利用したからだろうか。ぼくは東北新幹線が初めてで、妻は北陸新幹線も初めてだった。しかし青森までドライブとなると体力的にしんどいと決めてかかっていて、七戸十和田駅からレンタカーを借りることにしたのだった。

金沢から青森まで(大宮で乗り換えて)新幹線で5時間半というのは、やはり長すぎたかもしれない。つまり退屈な時間を過ごしたようだ。新幹線では景色を楽しむような叙情性というものがないし、ローカル線車両のようにそもそも窓が大きく取られていない。今後国内旅行は基本的にマイカーでの移動にすることにしよう。

さて、奥入瀬渓流そのものは最高のリフレッシュになった。樹木やシダ類やコケ類の知識があれば渓流沿いの林は宝物のように感じられることだろうが(実際接写レンズでコケを覗いている集団に出会った)、ただ歩くだけでも癒される。冷んやりした空気を吸って体内に取り入れる感覚と肌で接して感じる感覚と、水流の音と野鳥の声を聞いて音に包まれる感覚と、足で柔らかな土を踏みしめる感覚(それは脳に振動を与える)で体全体が本来の機能を思い出しているような心地よさだった。何より新緑の時期の植物には生命力がみなぎっている。その蒼さを360度感じ続ける豊かな時間が味わえるわけだ。

星野リゾートのスタッフは客とコミュニケーションをとって、楽しんでもらいたいという気持ちが出ていた。特に若い女性スタッフのレストランでの給仕は心のこもったものだった。フランス料理のメニューの説明ははつらつとしたプレゼンテーションのようだった。朝食では自分で作ったリンゴののったパンケーキを席を廻って勧めるもてなしに接し、会話も楽しめた。スタッフ自身楽しんでいるようで星野リゾートにはポリシーを感じた。