市場において商品力が高いか値段が安いかで購入が決定するのだが、人間も労働市場に置かれる場合もあるので、能力が高いか給料が安いかで雇われるか否かが決定される場面がある。あるいは能力そのものが市場で売り買いされるコンペという仕組みがあって、ぼくの場合デザインのコンペという機会がよくあった。コンペは客が一方的に設定することができ、参加しないこともできるがその場合客との関係性が希薄化するリスクを負わなければならない。サラリーマンは会社の決定が優先するので客が遠のくリスクは絶対に取らないから、客がコンペをかけるのを避ける術がない。
能力のある強者が勝負に勝つことが会社での善であり、ぼくはその会社に38年間居た。コンペでは負けることもあり、そうするとデザインから次第に遠ざかることになり別の業務に就くことが要求される。ぼくの場合、38年間の後半10年くらいはデザインからマーケティングに移らざるをえなかった。しかしマーケティングはゼロから能力を磨かなくてはならず、成果を出すことを会社はそんなに待ってくれない。成果が出せないなら足で稼げと強要される。そこから本物の地獄が始まる。なんとか定年まで持ちこたえることができたのは運が良かっただけかもしれない。