開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

カフカ「判決」を読んで(つづき)

カフカ「判決」を読んでの疑問にまず2から取り組んでみたい。2.オルグの婚約者が、そんな友人がいるのなら結婚しなければいいとなぜ言ったのか?

ここで友人がゲオルグの婚約者との結婚に深く関わっていることが示されるわけだが、どういう関わりか?オルグと友人との付き合いが結婚には邪魔になると読めるのだが、後の方の父の「判決理由」によると、ゲオルグは仕事中によく店の奥にこもって、仕事中は立ち入るべからずなどと言ってロシア(=友人)への嘘っぱちの手紙を書いていたと言っている。仕事に身を入れてないことを厳格な父は面白く思っていなかったということだ。結婚してもこんな調子だと、家庭が安定しないと心配して婚約者は結婚しなければいいと言ったのだろうか?ところが、その友人に婚約者は関心を持ち直接手紙を書くと言っていて、誠実な女友達ができるから帰ってきてはどうかとゲオルグは手紙を送っているのだ。婚約者はゲオルグの友人のことは誰でも知っておきたいと別のところでもいっていて、結婚する以上友人との付き合いはうまくやりたいのだ。この言葉は常識的に考えると、自分たちの結婚を多くの友人たちに祝福されたいので、ロシアの友人が妬んで結婚式に来ないようなら結婚しないとゲオルグに少し無茶を言ったのだと思われる。

では3の、オルグの父の態度がベッドに寝かせようとしてから一変して、息子をどんどん問い詰め最後には悪魔呼ばわりして、死を宣告するのはなぜか?について考えてみる。

まず態度が一変するのは、父をベッドに寝かせ足の方を毛布にくるんでいる時なのに注目したい。父の足をくるむ事は動かないように縛ることを意味している。そうはさせたくないのだ、絶対に。自分が起こした事業を息子に譲るとしても自分のやり方を受け継いでほしいと思っているのに、息子の態度は「スカートをまくり上げた女とお楽しみに明け暮れ、父親を見てもツンとすまして洟も引っ掛けない」有様だ。自分が身を引くようになって、売り上げが5倍に雇い人が倍となったのが素直に喜べずに自分をないがしろにすると見たのだ。父親を尊重してではなく、乗っ取るようなやり方に不信感を募らせていたのだろうか。直接的には友人に嘘の手紙を書いていたことを許さないと言っているし、所詮は悪魔のような悪だったとまで言う。自分のことしか考えない冷血漢だと罵るのだが、そのことはこれまで自分の胸の内にしまわれていた。(冷血漢かどうかベッドに立ち上がって前に倒れそうな姿勢をとって、息子が支えるかどうか試してみて確信する。)こんな奴は結婚して幸せな生活をする資格はない、だから溺れ死ねと宣告する。

4.父の死の宣告(判決)を聞いて、ゲオルグはすぐにまるで待っていたかのように自殺に赴くのはなぜか?の疑問に進む。父に本心が見破られていたことを知ってパニックになり、極度の自己嫌悪から自分を消したいと思って言われた通りに橋に向かって一直線に進み、川に飛び込む。全然迷いがない。自分が描いていた幸福な人生がこれで決着がついたかのように最後に、「お父さん、お母さん、ぼくはいつもあなた方を愛していました」とつぶやいて橋の欄干から手を離す。これは別の世界への旅立ちのように思えるほど、感情的な恨みつらみがない。(むしろ喜んで自殺しているようだ。)

さて5.カフカはこの小説で結局何が言いたかったのか? に進むのだが、これは憶測するしかない。カフカのことはこの小説や有名な「変身」を読んだだけではわからないからだ。気になるのはロシアに行った友人のことを「あきらかに生き方を誤った人間であって、同情は出来ても手助けはできない」と言い切っていることだ。それを冷血漢と責めることはできるかもしれない。それができないとしたら友人ではないからだ。ぼくは個人的に友人とはそういう関係のことだと聞かされたことがあり、心に残っていた。だから、1の疑問にあるようにロシアの友人は実在しないのではないかと思うのである。カフカ研究者が言うようにこの友人はゲオルグの分身と捉え、この小説自体もゲオルグを死なせ、友人の方を生かすことは生き方を誤ったとする価値観の方を葬り去ったと解釈できるのかもしれない。そして友人の生き方とは作家の隠喩と捉えると、カフカが作家として出発するための「自殺」と読める。カフカ研究者の入れ知恵で解釈してしまうが、そうするとスッキリするのは否めない。