精神的無力どころか経済的無力に突き落とされ、それでもなおもの言う術を知らぬ者たちは、お上の統制下にあってささやかな幸福を不断に求めてやまない自分から離れて、一個の独立した存在をめざすための第二の生を付与しようとはせず、相変わらず強者にその身を売り渡し、権力に秋波を送りつづける。
あまりに無思慮な男女の愛の営みの結果として、この禍々しい大地に他の動植物たちと同様に、意昧があるともないとも言えない生を得てしまった人間の苦悩は、獄舎のごとき肉体に閉じこめられているあいだずっと続行され、正しく生きる術を学びながら、調和に満ちた生涯を築きあげることは至難の業だ。
ここで言われている「第二の生」はどうやってつくられるのか?丸山健二は獄舎のごとき肉体から離れることを要求しているように思える。至難の技ではあるけれど、正しく調和に満ちた自分の道を歩くことを勧めている。ぼくがなぜこの作家に惹かれるかというと、資本主義社会のなかで歪められる生に自覚的であり、甘えることなく嘘のない強者の生き方を生きているからだ。
武器は「第二の生」だ。それは学ぶことができる。鍛えることもできる。まずはその武器を作ることができる心の場所を確保しよう。