ぼくも若い頃は「心の故郷」などという古めかしいイメージとは無縁でした。職業は一応グラフィック・デザインでしたが、会社勤めだったのでただデザインだけをしていればいいというわけにはいきませんでした。地元の中小企業に飛び込んだので、入った時にはデザイン室もありませんでした。
40を過ぎて自宅を建てる頃になって、心境の変化がありました。無性に落ち着きたくなったのです。いわゆる「歳をとった」ということなのでしょうか。それまでどんどん前に進むことしか考えていなかったのが、一旦休んで見ようと考え出したら今度は休むことばかり考えるようになりました。休むことが新鮮で面白いように感じられたのです。
その頃、農業法人のクライアントが新しくぼくの担当になって、それは出会いとなりました。農家の方が自由人であることに初めて気づかされました。自分の田んぼや畑を耕していればとにかく食うに困らないというアドバンテージが新鮮でした。ぼくはカメラマンを連れてきて田んぼで自由な彼らの写真を撮りました。その時が心の故郷という場所を見つける最初になりました。