今、竹田青嗣の「ニーチェ入門」を読み終える。マルクス主義没落後、現代思想としてもてはやされたポストモダニズムの源流がニーチェであることは知っていたが、この本でその内実をつかめたばかりではない。竹田青嗣という、ぼくが苦境の時に出会った哲学解説者(「自分を知るための哲学入門」の著者)によるニーチェ解説が、定年後の生き方を模索する現在の自分にも道標になった。最後の西洋哲学者、つまり哲学においては現代人の魂を救う原理を宗教によらず提出できるのは、ニーチェ以外にはいないということだ。ナチスを生む思想の原因ともなる優生学とか、戦争を肯定しかねない程の危険性をも含む(もちろん誤読によるものだが)、人類問題にも突き進む力への考察があり、一筋縄ではいかない深さに付き合わされる。しかし、徹底したニヒリズムの果てにルーザロメとの恋愛を通じて人格化された「超人」のモデルが、キリストを凌駕するツァラトゥストラによる福音の書に描かれることとなった。これほどの知の巨人を理解することは、自分を幾分でも高めてくれる。きわめて生きにくい現代を苦悩とともにタフに生きる術を教えてくれる。