Quoraに以下の質問者がいて、対する答えをされた方が具体的でリアルでした。今、日常レベルで戦争を話題にするとこうなるのかなと興味深かったので転記することにしました。(自分自身の考えの検証のために)
「日本は武力を放棄すべきだ、侵略された場合は、降伏すればいい。」と主張する人がいます。家族や友人が殺されそうになっても同じ事を言うのでしょうか?
●児玉 裕宗 (Kodama Hiromune), 元塾講師 現施工管理
二十年前なら想像もできないような極右の意見が多数出てきていて、戦争体験者が「戦前と空気が似てきた」と憂いているのがよく分かります。戦争にリアリティを感じていない、正に平和ボケと言うべき、大いなる危機です。この傾向が続けば、日本はまた同じ過ちを繰り返すでしょう。即ち戦争をして、そして負けるでしょう。
まず、私のスタンスを書いておきますと、日本は武力を放棄すべきだ、とは思いません。その点では質問の主張とは異なります。しかし、侵略された場合は、降伏すればいい、と思っています。その上で、以下をお聞きください。
①家族や友人が殺されそうになっても同じ事を言うのでしょうか?
世界中で戦争や紛争は起きています。その中で、正に目の前で家族を殺された人は幾らでもいます。かつての日本でも、多く発生しました。代表的には、沖縄戦です。そういう人に対して、この質問は大いに失礼です。その時沖縄には多くの軍隊がいましたが、軍隊は家族を守ってくれませんでした。それどころか、民間人を盾にして生き延びようとした、自らが強姦略奪をした、泣いた赤ん坊を撃ち殺した、自決を強要した等、酷い話が多数残っています。
沖縄戦では、防空壕の火炎放射器による掃討がされたのはご存知でしょう。そして、たまたま外に出ていてそれを目撃したとしても、何もできなかったでしょう。自分が出ていけば自分も殺され、やはり家族は焼かれて殺されたに違いありません。そして自分だけが生き残り、罪の意識に苛まれている。自殺しようとも思ったが、そうすれば遺体遺骨を墓に収めることもできないし、家族全ての記憶記録は失われてしまう。後世にこの悲惨さを伝えることもできないので、何とか思いとどまっている。そんな人の横で、「家族を守るためなら戦いますよ」なんていう言葉がいかに軽々しく、虚しく響くか、想像できるでしょうか。
②戦って、かつ負けることを想像できていますか?
勇ましい意見を言う人は、戦争前〜初期に浮かれていた民間人に重なって見えます。当時、戦場は遥か国土から離れた所にあり、初期には連戦連勝でしたが、それにお祭り騒ぎだったそうです。しかし、軍部にも最初から不利を予見していた人はいたし、識者には反対意見もあったのです。その後は御存知の通り。戦争反対をする者は激しく弾圧され、負けがこんでくると今度は情報封鎖。そして特攻、沖縄戦、本土決戦まで考えていた。正に歯止めが効かなくなっていました。
回答の多くが、戦争になって且つ負けたときのことを書いていません。シベリアだの奴隷だのと色々書いていますけど、ではそれは軍隊がいれば無くなるのでしょうか。勝てばそうです。しかし負ければ、最初から降伏するより遥かに酷い仕打ちが待っています。それこそが奴隷やシベリアの話なのです。①の話も同じですよ。沖縄戦も原爆も東京大空襲も、最初から降伏していれば無かったでしょう。
第二次世界大戦における日本人の死者は、260〜300万人程度だったそうです。沖縄戦は19万人、広島で16万人、長崎で7万人、東京大空襲で10万人。一家全滅どころか村ごと全滅、役所も焼けて資料も残っていない、誰が死んだかはおろか、何人死んだかすら分からない。これらはほぼ、最初から降伏していれば死なずに済んだ人です。この人達にとっては、「家族を守るためなら降伏するよ」こそが正しかったのです。
降伏後に財産没収や奴隷化、殺戮などが起こったかも知れませんが、戦争をして負けた時に比べれば遥かに少なかったであろうことは明白です。更に、無条件降伏ではなく、条件を付ける余裕もあったはずです。
③負けるとは限らない?
侵略とは、相手国にとっては受け身ではなく攻めの戦争です。当然、必ず勝てる算段をしてから攻め込んでくるはずです。もちろん時の運はありますが、戦争が始まった時点で、既に圧倒的に不利な状況にいると考えるのが自然です。
戦術も進歩しているはずです。例えば、揚陸艇を大量に出して海岸を占拠して、…というような古典的なものではなく、インフラを破壊して疲弊するのを待つ、というものになるでしょう。製油所やタンカーを破壊するとか、主要道路と鉄道の要所にミサイルを打ち込む、発電所や送電網の破壊、浄水場を汚染する、といったものです。日本は人口が都市に極端に集中しており、また山がちな国土であることから補給路が少ないため、このようにされると、いきなり数百万人が生命の危機に陥ります。
戦争というと面等向かってドンパチ、と想像しがちですが、これだとテロのようなもので、事が起こった時にはもう犯人は逃げてしまっています。戦おうと拳を振り上げようにも、相手はいないのです。反撃はおろか、防戦すらできません。
④もし目の前の戦争に勝てても、その時点で既に負けている。
それでも勝てるかも知れません。しかしその戦争には勝てても、かつての日本の繁栄はそこで終わるでしょう。あるいは相手国は、そこまで見越して攻めてくるのかも知れません。
その大きな理由は、日本が資源小国、貿易立国である、そして今まで日本は平和だった、それが崩れたという事実、また戦争によって受けたインフラへのダメージが、中期的に日本に大打撃を与えることです。
もう、かつてのように安心して日本にモノを売る、買うことはできないでしょう。今までが良かっただけに、そのイメージダウンの影響は大きいはずです。何かしらの担保や審査を要求され、それがコストに上乗せされ、国際競争力は低下します。また、国力の多くは破壊されたインフラの復活に注がれるでしょう。それはマイナスをゼロにする作業でしかなく、国の繁栄には結びつきません。完全復活には何十年も掛かり、その間、国民の生活レベルは大きく落ちるでしょう。新興国並み、あるいはそれ以下になる可能性は十分にあります。そして当然ですが、死んでしまった人は戻ってきません。
もし、上のようなテロ的攻撃だった場合、相手国に損害賠償を請求できるかどうかも怪しいものです。今のサイバー攻撃などと同じく、国の関与があったかどうかを証明することが困難だからです。もし犯人を逮捕できても、本国へのダメージはほぼありません。
⑤ではどうすべきなのか。
そもそも、現代は戦争をしにくい時代になっています。世界中の国が他の国と貿易をし、その利害関係は複雑に絡み合っているからです。敵対している国同士でさえ、そうなのです。アメリカと中国、日本と韓国と中国、何れにも密接な貿易があります。つまり、複雑な経済活動は、それそのものがお互いへの抑止力になっています。他にも、日本は海外に多くの債権を持っていますね。これも抑止力です。
外交力も立派な抑止力です。かつて、これは日本はあまり優秀とは言えていませんでしたが、これも近年は伸びてきているように思います。そして軍事力です。当然、自衛隊のことを言っています。
日本が優秀なのは、これらの抑止力を決して脅しに使ったりしないことです。アメリカのように直ぐ制裁したり条約破棄したりするような下衆な国ではないのです。経済が抑止力だというと、直ぐに制裁だの輸出規制などという暴力的な思想に走る人がいますが、そうではないのです。たとえ敵対国であろうとも、経済活動における契約は誠実に守る。これが多くの国の信頼を得ている、重大な理由なのです。これこそが、現代の抑止力です。
抑止力というのは、こういうものをミックスして行うものです。そして、軍事力の優先順位は、最下位にすべきです。現代の抑止力の行使にじゃまになるからです。そして、軍事力という選択のギリギリのところまで降りていかないよう、常にアンテナを張り、外交を絶やさず、敵を作らない、平和を保つ努力をすべきなのです。
そしてもし、努力虚しくそこまで降りてきてしまえば、上で言ったように、もう負けです。負ける戦争をするよりも、降伏するのが一番ダメージが少ないはずです。
⑥そこまで分かっているなら、怪しくなってきたら直ちに準備すれば?
最後になりますけど、もし日本を侵略しようとする国があるとすれば、中国とアメリカしか考えられません。日本より有意に軍事力が強く(戦って勝てる自信があり)、且つ各々日本を攻める理由がある国です。それ以外のいかなる国も、小競り合いはともかく、侵略戦争になるということは考えられません。
この二国に対して軍事的に勝てるように準備する、そんなのできると思いますか?