「人」のことは自分をモデルにできるので、実感とか納得感が得られれば普遍的に考えられたことを自分のものにすることができる。「人はなぜ物語を必要とするか」も正解を気にすることなく、まず自分はどうなのかを見てみればいい。(ちなみに世の中には自分で考えずに他人から答えを求める人が多すぎると思っている。)ぼくがまず言えるのは物語には、ひと所に停滞せず移動しているという「流れ」がエネルギーを感じさせ、自分の生存を「仮託」させる働きがあるということだ。物語の中に入ることで日常とは違う世界に生き始めることができる。現実の世界は、支配する人と支配される人に分かれているが、物語の中ではその運命からはひとまず逃れられる。前提がない未来ばかりの冒険で物語は作られるところに、その最大の必要性を感じる。
現実の世界では誰か(システムともいう)の支配下にあって、自分は他動的に時間が流れるが、物語の世界では謎の形ではあるが自分に深く関わって、いわば自立的に時間が流れる(だから物語になる)。自分が動かされているという実感から、自分が(もかもしれない)時間を動かしている実感を持つことができる。これが「人はなぜ物語を必要とするか」のぼくの答えだ。