開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

安部龍太郎著「等伯」を読む

今、安部龍太郎の「等伯」を読んでいる。昨日は「上」を読み終えて今日は「下」を半分ぐらいまで読んだ。ぼくは時代物の小説は食わず嫌いでほとんど読んでいない。「蝉しぐれ」と「龍馬がゆく」ぐらいだ。自分の生き方の指針になりそうなものを小説に求める読み方なので、時代小説にはそれがないと思い込んでいるからなのだろう。「等伯」は我が石川県の七尾の人で、今年の読書会で等伯の初期作品を収める七尾美術館を文学散歩で訪れることにしていて、その前準備として安部龍太郎の「等伯」を読んでいる。だから文学散歩の計画がなかったらおそらく生涯読まなかったと思う。読んでみると想像以上に面白く、読まなかったら後悔するところだった。等伯が身近に感じられるのはもちろん、安土桃山時代そのものを中に入って知ることができる。等伯は武士の出でもあるのである程度剣術ができた。戦国の波乱の時代を権謀術数に巻き込まれながらも時に勇敢に立ち回ったことが描かれていた。意外だったのは信長に衝撃を受けたことだ。たった一度しか登場しないが、等伯たちが故郷の七尾に向けて京から逃げる途中の琵琶湖で、兵を率いて滑走する御座船の舳先に立つ信長を見る。南蛮風の緋色のマントを風になびかせながら、一人舳先に立つ姿が目に焼きついたのだ。ぼくは思わず、格好いいと叫びそうになった。戦争(交渉力も含めて)の天才で、全く恐れを知らない全身自信そのものという姿がぼくの目を射抜いた。なぜか知らないがこんな経験は初めてだった。但し信長については、当時のスペインの日本植民地化に手を貸した売国奴という見方もできる。

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