開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

Reminiscence

何でも英語にしてみると無味乾燥な硬い言葉が生まれ変わるような気がする。Reminiscenceとは回想力のことだ。定年退職後の生き方の重要な「仕事」として回想があると思っている。時間だけはたっぷりあるのだから、自分の人生のあらゆる局面を回想することは老年期を迎える人間にとって普遍的な「仕事」なのではないだろうか?ただし回想を文章にして見えるように展開するにはそれなりの労力を必要とする。回想力を養うのはやはり読書によるしかないように思える。例えば初恋の時のドキドキした感じは、回想するにはもってこいの局面だ。ぼくの場合、中学卒業しての春休みに意を決して電話をかけた時だ。中学3年の時にクラスが一緒で同席になった女の子だった。電話番号は多分電話帳を調べたのだろう。そのころは携帯電話などはないから、親が出てくる可能性がある。その時は幸運なことに直接彼女が出てきた。確か、デートの日時と場所を事務的に話すのがやっとだった気がする。OKをもらうと月並みな表現だが、天にも昇る心地だった。不思議なことに実際は彼女との付き合いはとうに終わって、もう連絡も取れない(もう電話番号もメールアドレスも繋がらない)のに、思い出という意識の過去形だけは何度でも呼び出すことができ、経年変化しない。声も景色もためらいも息づかいも風も星も目も髪も経年変化しない。