開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

読書会の楽しみ

野々市市の読書会に参加して2年半は経つだろうか。名作とされる小説や本屋大賞など話題になった本や、メンバーの好みの本を当番が決めて、それをみんな読んできて感想を自由に話し合うというものだ。先月はぼくが当番で、ブレヒトの「肝っ玉おっ母とその子供たち」をみんなで読んだ。メンバーにはブレヒトを知らなかった人もいた。でも全員感想をそれぞれ述べるほどには読んで来てくれた。まずそれが嬉しいし、長続きしている最大の理由だ。ヨーロッパの30年戦争の時代が舞台であり、戦争を災難として耐え忍ぶだけの庶民ではなく、主人公は兵隊を相手に商売をする酒保商人である。だから単純な戦争反対ではなく、非戦闘員として戦争に参加している設定になっている。どれだけ読みこなせるか日本人が追体験しにくいのではないかと、これを選んだ当人としてちょっと心配ではあった。実はこの戯曲は、あの無名塾能登演劇堂で取り組んでいて、メンバーの一人は仲代達矢の熱演を観ていることで、親しみを持ってもらえると見込んで選んだものだった。平和になると仕事がなくなる家族にどう寄り添いながら、過酷な環境に生きながらえていくのかがこの戯曲の中で問われる。肝っ玉おっ母のセリフは本能から発せられる。ブレヒト自身がナチスから命を狙われる環境の中で、一気に書きあげられた作品だけあって重い事実だけが進行するリアリズムがある。このリアリズムに触れる読書会が、ファンタジーやミステリーものの読書会では味わえないものとなっている。現在メンバーは11名で、すこぶる仲がいいのは、それぞれに過酷な体験を少なくとも文学で経験しているからかもしれない。