もう選択肢が多いことはプラスにならないと思える人生の時期に来ている気がする。もうすぐ67歳になる。何か一つのことに時間を集中しないと、何も生まれない気がする。もう既に遅いのかも知れない。若い頃から一つのことに集中して打ち込んできた人が、今ぼくのような年齢になって、円熟した、深みのある時を味わえるのだろう。ところがぼくの場合は、定年退職してサラリーマンの人生をまるっきり否定して、第二の人生を始めようとする時に出発点が改めて必要になる。ぼくの生きた半生とまるっきり違う人生を始めようとするには、もがく必要がある。試行錯誤で何かを掴まなければならない。
それがようやく後半生のスタートを飾るほどのテーマを見つけ出したような気がする。気がするだけで確かなことは分からない。それは翻訳に関わることのように思える。翻訳とは、終わってしまったことを別の文脈でそれとは違うように再生すること、と定義してみたい。再読と類推してもいいかも知れない。一度終わったぼくの人生を読み終わって、第二の人生を始めるのは最初の人生を再読することに等しい、と考えてみる。とにかく翻訳というテキスト構造に秘密が隠されていると、ぼくの心が直感する。