開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

思いがけない君の声

あの頃はまだぼくたちは別々の世界に住んでいた。

君はぼくが無理をして世間からずり落ちないようにしているのをそばで見ていて、

もっと自分らしくしていればいいのにと思っていた。

君は自分の欲しいものをあまり顧みなかった。

ぼくの着なくなったトレーナーを好んで着ていたりした。

実家の親にプレゼントするつもりの温泉旅行が何かの都合で行けなくなって、

結局自分たちで予定外に行くことになって、

少し場違いな温泉に泊まった時、温泉にはお客はおらず、

風呂場の壁越しに声を掛け合って他愛もない事を話たね。

湯気で朦朧とした静かなガラス張りの空間は君の声を遠く、

いくぶん幻想的にした。

あの声を思い出してなんとも救われたものだったと改めて思う。

無理に世間的なことに合わせようとばかりして、

自分の懐かしさをもう少しで無くしそうだったのを

君が遠くから救ってくれたのだった。