開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

目的を持って読んだ小説

「世の中を知るための小説」という自らの題につられて、過去に読んで面白かった本を取り上げてみたくなって、今回「目的を持って読んだ小説」と題してみた。石川県の県立図書館が主催かどうかわからないが、その読書会サークルで「本を読む仲間の集い」というイベントが古くからあって、昨年その課題本の中に原田マハ「中断された展覧会の記憶」があった。3.11の原発事故で架空の福島の美術館企画展でアメリカの作品の返還を求められたという設定をした短編小説だったが、ぼくには上昇志向の新進作家が原発を自らの「美術館小説に利用」したように思えた。自分の都合ではなく本格的な3.11以後の小説を探していた。その時探し当てた小説の中に、金原ひとみの「持たざる者」があった。3.11で受けた傷を作家として正当に身に引き受けた上で巧みに同世代の生活者を描き出していた。「目的を持って」というのはいささか大袈裟ではあるが、ぼくの共感したい気持ちを満たしてくれた。

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