ぼくは多読の方ではないけれど空白期間はあるものの、ぼくの人生の3分の2くらいは読書をしてきて本と共に過ごしてきた。サラリーマンの間の読書は仕事がらみであったが、それでも文学書や哲学などの思想書は時々手に取ってはいた。(つまり読み通せてはいなかった)それで振り返って思うのは、ぼくは二つの生活をしてきたという感慨を持つ。実人生と読み書きの上での人生である。先日高校の同級生にメールで、ぼくの実人生の方は平々凡々だったと書いたら意外な感じがしたと返信してきたことがあった。本を読むだけなら誰でもできることで平凡なことに違いない。エッセイや小説を書くことには非凡な能力はあるだろうが、読む方はその気になれば誰でもやっていると思っているが、そうでもないのだろうか?
「読み書きの上での人生」とはどういうものだろうか?自分が二人いるという感覚かも知れない。実人生でどんなに苦しくて嫌なことがあっても、もう一人の人間がちゃんといると思っていれば余裕が生まれる。おそらくそれが最大のメリットだろう。実人生は関係の絶対性に支配されて、絶対に一人っきりにはなれないが、「読み書きの上での人生」では自分が主人公で一人っきりにもなれる。これはその世界を持っている人には、絶対の安心領域だ。そう思うと作家は楽しくてしょうがない人種だろうと、羨ましい限りだ。