いつの間にかのっぺりとした日々が繰り返されるようになっていた。シェークスピアの「真夏の夜の夢」というタイトルにうっとりしていつか読もうとしてた本は、そのまま閉じられたままだ。あの頃暑い夜は野外ジャズ祭をやっていて、彼女を誘って出かけたものだった。白昼の白いコンクリートビルが、気だるげに若者が通り過ぎる道に濃い影を作っているような路地裏にジャズ喫茶があった。その店には髪の長い神秘的なお姉さんがアルバイトしていて、ぼくと顔なじみになっていた。店の中は狭い空間にランプ一つの照明で暗闇を演出していた。その狭さと暗さが心地よかった。ぼくたちは仲間だった。そこは大音量のジャズで溢れかえっていて言葉は必要なかった。どうしても伝えたいことがあったら、ほとんど体を寄せ合う必要があった。時々アルバイトのお姉さんがぼくのそばに来て囁いた。あなたは禁欲的だわ。