開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

ぼくはどんな人を愛しいと思うか?

このブログで何度も書いているが、唯川恵という金沢出身の直木賞作家について改めて触れたい。来月の19日に金沢市の隣の野々市市に来られてトークショーが催され、ぼくは主催者から事前に何か質問をするように「段取り」されている。多分会場で誰も質問しないだろうから、サクラとして初っ端質問してくれということなのだが、それを無下に断るほどの反骨は流石にない。ぼくにとっては直木賞作家と初めて口がきける機会になるのだから、何か気の利いた質問の一つでもして生の回答が得られれば長い人生に貴重なひと時になるかもしれない、と思う人間だ。

その気の利いた質問を捻り出すために、3作の小説を読んだ。先ずは読む必要がある。全作読めればいいがそれは無理として直木賞受賞作と、直木賞受賞作と真逆と思われる作品と最新の長編作を読んだ。気づくのはこれまでのぼくの馴染みの作家とは違って、作家自身の身に起きた問題を深く掘り下げたり、自分の個性を断続的(多面的)に一貫させるという構えでないということだ。つまり、大江健三郎村上春樹のような作家タイプではないということで、自分のことは後回しにして自分が分身のようにして入り込める他人を主人公に立てている。だから3作それぞれに主人公は全然違ったキャラクターになる。バブリーでわがままな女性と、施設出身で不幸を自ら引き寄せる女性と、偉業を成し遂げる努力の女性を、それぞれ一編の小説に描き切る作家なのだ。

もう一つ唯川恵を知る上での手がかりがある。それは講演会ではなくてトークショーだというところだ。トークの相手は文芸業界の中の人ではなくて、よくは知らないが地元でトーク番組をやったことのあるプロデューサーのような人のようだ。唯川恵は自分から話題を指定したりせず、注文を受けて考えるタイプらしい。小説も編集者の意向を受け入れて書く作家なのかもしれない。いわば想定する読者との距離が小さいのではないかと推測される。そのように相手の唯川恵を知って、さて何を聞いたらいいだろうか?

おそらく読者思いのある人で親切な人だろうから、読者としての悩みを解決してくれそうな質問がいいのではないか、と一先ず考えられる。だったら唯川恵の読者の一人であるぼくが、どんな悩みを聞いてみたらいいのかと、自分に聞いてみよう。

ぼくは、「肩ごしの恋人」と「雨心中」と「淳子のてっぺん」を読んだあなたの読者ですが、その中で作者として一番共感する主人公は誰ですか?一番寄り添いたいと思う人はどんな人でしょうか?

ぼくが聞きたかったのは、唯川恵の愛しいと思う人はどんな人かということだった。それはぼくが愛しいと思う人と一緒かどうかということみたいだ。