現役の直木賞作家の唯川恵のトーク・ショーに参加してきた。軽井沢から実家のある金沢にきて、金沢の隣の野々市でやる事になって、戸惑っている感じを受けた。田舎に帰ったらいつもの調子と違うものを感じたのではないだろうか?作家という感じは受けず、普通の気さくなマダムといった感じ。気取った感じは一切なく、ジェンダーを主張するようなこだわり女性でもなかった。非常に謙虚であったし、大勢の聴衆の前が苦手な様子は隠しきれなかった。登場するときに案内者がそばにいないと一歩も前に進めないような、痛々しさすら感じられた。ひょっとして作家という人種は、その場の空気に過敏になりすぎて、間に「緩衝材」がないと落ち着かないのかもしれない。ぼくは会場からの質問者の1番手になるように言われていた。「今までの作品からもっとも寄り添いたいと感じた女性は、どういう女性か」に対して、作品を書いてしまえばそれっきりで、冷たいかもしれないと答えられた。書いたら切れてしまって、もう寄り添おうとした感じは忘れてしまうようだった。何か人ごとのように「肩ごしの恋人」のるり子のように生きられればいいけど、書くんだったら「雨心中」の芳子のような女性が好きだ、というあっさりした回答だった。むしろ読者のぼくの方が思い入れが深いのかもしれなかった。小説はもう力技で書ききるものだ、という作家の職業感覚であえて女性の情緒っぽいところを外した感じだった。とにかく、小説のプロと直接言葉を交わした経験は、作家と読者の違いが現れたものだった。大きな違いかもしれないし、意外と小さな違いかもしれない。