開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

窓辺のピアノソナタ

ぼくが19の頃の工房で

モーツァルトグレン・グールドという二人の天才に出会っていた

人生の可能性がその時 then 開かれていたのに

全く予備知識もなく、無防備で

阿呆のように呆然としていた

頭に何もなかったから

刻印のようにこころにそれは刻み込まれた

19の頃からおそらくはみ出して行ったのだろう

起点がどこにもなく、出口のない牧歌的な田舎道を

一人で歩くことになってしまったことに

気付いた時には後戻りできなかった

ぼくには何もなかった

働くことなんて思いもよらなかった

いったいどこに行こうとしていたのだろう

叙情とはいえない雰囲気だけはあって

ぼくの周囲を取り囲んでいた

モーツァルトピアノソナタという音律だけが

止めどなく流れていて

いつもは倦怠が訪れる工房の午後も決して

眠くなることなく、覚醒していた

世界は止まって何の現実感もないのに

無垢な幸福だけがそこにあった

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