ぼくが19の頃の工房で
モーツァルトとグレン・グールドという二人の天才に出会っていた
人生の可能性がその時 then 開かれていたのに
全く予備知識もなく、無防備で
阿呆のように呆然としていた
頭に何もなかったから
刻印のようにこころにそれは刻み込まれた
19の頃からおそらくはみ出して行ったのだろう
起点がどこにもなく、出口のない牧歌的な田舎道を
一人で歩くことになってしまったことに
気付いた時には後戻りできなかった
ぼくには何もなかった
働くことなんて思いもよらなかった
いったいどこに行こうとしていたのだろう
叙情とはいえない雰囲気だけはあって
ぼくの周囲を取り囲んでいた
止めどなく流れていて
いつもは倦怠が訪れる工房の午後も決して
眠くなることなく、覚醒していた
世界は止まって何の現実感もないのに
無垢な幸福だけがそこにあった