若い頃は過去より未来が大きい(長い)が、老年になると未来が小さく(短い)過去が大きい(長い)。これは過去だけが確実な存在なのだから、本当は過去が大きくなる老年の方が豊かなはずだ。もちろん人生には浮き沈みがあり、良い時もあれば悪い時もある。楽しいことも辛いことも多く経験してきて、ともかくも多くの経験が過去の中に蓄積されている。人生長く生きてきている方が色々な経験をしているから、豊かな人生のはずではないか。もしも健康であれば、お年寄りの方が人生の満足度が高いはずではないか。老いが凋落のイメージになるのは、若い時にできたことが老いるとできなくなることと結びついているからだろう。もし若い時は時間がなくてできなかったことが、退職して十分な時間とともにできるようになれば、若い時よりも前進していることになる。ぼくは若い頃より今の方が多く本を読んでいる。若い頃は気付けなかったことも老いて気づくことが多い。感受性や好奇心は若い頃より増しているかもしれない。ただ行動力は落ちていることは認めるが、自由時間が若い頃より圧倒的にある今の方が行動範囲は広く持てるかもしれない。要は考え方だろうと思う。他人が考えたことに別に従うこともない。NHKプラスで「100分de名著」を見ていた。ボーヴォワールの「老い」を取り上げていた。上野千鶴子氏が解説していて参考になることもあったが、やはり西洋知識人の考えには東洋的な思想がすっぽり抜け落ちている面がある。そもそも実存主義では西洋至上主義になりやすく、レヴィストロースの野生の思考に負けてしまった。老いについては、野生の神話や日本の神話の方に真理がありそうだ。