自分は人生の敗北者か、という問いを自分に投げかけたことがあるだろうか?結婚して子供ができなかったから、ちょっとは寂しい人生だったかもしれない。どんなことがあっても信頼を失わない友人はいないが、テニスや読書会などの同好の士には恵まれている。贅沢はできなかったが、生活に困るようなことはなかった。人を羨んだり、憎んだりしたこともほとんどない。会社員時代は出世しなかったが、定年まで仕事ができて退職金も人並みにはもらえた。人並み以上の才能には恵まれなかったから、芸術やスポーツで名を残すことはできなかった。特技はないが、好奇心と向上心はあるので勉強は続けている。こういう平凡な人生は敗北とは言えないのではないだろうか?ただし、成功とも言えない気がする。全身全霊をかけるような挑戦はしてこなかった。仕事でも人付き合いでも、相手とは最終的には関わらない部分を残していた。アルコールはダメだったし、身を崩すほど恋愛にのめり込むなどということもなかった。社長の思いがけない一言で窮地に陥りかけたが、何とか立ち直って耐えた。災害にも合わず、大病することもなく、怪我をするような事故にも合っていない。長い半生でほんの一時期、不登校や学生運動の経験はあるが、その後の人生に大きな影響はなかった。多少は世界観や価値観に影響はしているだろうが、信念を持つほどの思想があるわけではないと思う。会社員時代に学生運動の経験がある人と仕事上で付き合いがあった時、彼から藤井さんは何もしない人ですね、と言われたことがあった。その時は何もできない自分に無力感を感じたが、何もしないのも選択の一つだと今は思っている。まだ時間は残っている。まだ3分の1くらいは残っている。敗北を認めなければ敗北しない、というしぶとさを失わずに生きていこうと思う。「老人と海」のサンチャゴ のように。