開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

リタイア者だから源氏を読む

今では社会から用のない年金生活者の身になっているから、社会的な倫理観から自分を見ることはやめて、平安の王侯貴族のように意識では遊んでみようと源氏物語を今日で須磨の巻まで読んだ。源氏物語は読むまでと読んだ後の印象が、これまでのぼくの読書体験中で最も異なる。ある意味傍若無尽で軽く常識を跳び越える。神をも恐れぬ恋に没入する主人公には、繊細な神経と生真面目さを同居させる。しかし現実は厳しいリアルさで細々と展開する様は、現代の管理社会並みのストレスに支配されてもいる。確かに典雅な楽謡と燻香と月と風雅に満たされた王朝世界があるが、夜の行動が意外に多くを占める。ほとんど深夜に訪れる光源氏を待っている女たちがいる。明け方の風情をさりげなく描くことで多くのことはぼかされる。しかし末摘花のような醜女との場面は容赦無く具体的であったりする。五百人近くの登場人物を描き分ける筆致や、和歌から漢詩まで、都度シーンで登場人物に歌わせるだけの紫式部の教養は空前絶後と言ってもいいのではないか。近代の大河小説や全体小説などをありがたがっていた自分が恥ずかしくなるほどだ。とにかく読み始めた人にしか開かれない、現代人にとってこその快楽の扉がそこにあると、ほとんど他人に勧めることをしないぼくがお勧めする。

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