開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

ぼくが受験生だったころ

6月の空が低く灰色に街路が引かれていた

二人の大学生が通り過ぎていくのを

屋根裏部屋の小さな窓から見送っていた

法科と工科大学を選択して約束されたエリートの道を

余裕を振りまきながら知的に歩いていた

所々の電柱には政治集会のビラが貼られていた

どこかの下宿部屋からは

バッハの無伴奏パルティータのもの悲しい旋律が

通りに漏れ出ていた

アスファルトの生あたかい温もりが

庶民の沈黙を厚い層にして感じさせていた

テレビにも週刊誌にも活動家崩れが棲んでいた

こんな田舎に解放区なんかあるはずもないが

受験生が起きているあいだは

闇は地球のあちこちからの低い声に同調していた