開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

読書会のTさんのこと

このブログを読んでくださる方の中で、お住いの地域に読書会(または読書クラブ)があるという方はどれだけいるのだろうか?読書会が静かなブームという話は数年前に聞いたことがあったが、SNSを使って若い人たちでやられているらしい。ぼくたちのような高齢者中心というのは珍しいかもしれない。ぼくが所属している「野露」読書会は昭和61年にできているから、36年間続いていることになる。できた当初は女性ばかりで、その時は働いていて読書会が開かれるのは月の最終土曜日の夜だったらしい。普通サラリーマンだったら土曜の夜は飲み会になるところ、みんなでその月に読んだ本の感想を公民館に集まって話し合っていたということなのだ。よっぽど本好きだったのだろう。今想像すると、熱い時代だったのだろうと推察できる。

さて、ぼくは野露読書会の中で2番目に若い。そしてTさんは一番若い。でも入会したのが2011年で、ぼくより8年ほど早い。会員としては8年先輩になる。ぼくが入会した頃はまだ独身だったが、その後すぐに遅い結婚をされた。最初のTさんの印象は、あとでご自身も言っておられたが、「独り者の気楽さがどうにも抜けず、随分と図々しい物言い」をされていて、ぼくには面白い人に映ったが心のどこかに空虚を抱えている風に感じられた。ドストエフスキーを読んでいて、ぼくと共通の読書歴があった。読書感想はというと、好き嫌いがはっきりしていて嫌いなものは著名な作品でも「分からん」と言って切り捨てる事もあるような、とんがった発言者なのだったがメンバーは余裕を持って受け入れていた。昔、課題本に石川淳の「紫苑物語」を取り上げた時に、うつろ姫という肉欲だけの妻も話題になり、それを一人だけ肯定する女性がいてそれがTさんだった。ぼくはTさんの横にいて下を向いて苦笑していた。そういえば、失礼な話だが、そのうつろ姫はTさんに共鳴する部分があったのかもしれない。

最近の、といってもここ半年ぐらい前からTさんはメンバーのお世話を自ら買って出られるようになった。図書館で借りた課題本を人数分コピーして冊子にする面倒な作業や、イベントの時自分が写した写真をプリントして配ったり、課題図書の購入の場合はまとめて買って配ったりしていただいた。高齢者が多い会なので、お世話することが最年少の自分の務めと弁えている風である。だんだんとTさんは、自身の心の空虚を満たされていっている気がする。