開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

定年退職者の朝*

白々と夜が明けて来る、薄暗い部屋の中で一人で過ごす時間が最高です。一人の時間に満たされて、お湯を沸かしてコーヒーを淹れるだけのルーティンがウキウキします。新聞を読んだりテレビをつけたりなんかしたらぶち壊しです。完全に外界から遮断されるから自由なのです。寒くも暑くもなく、体温と空気が一体化して部屋の中に包まれている感覚が好きです。ユリシーズの「塔」の中の活動的な朝の雰囲気をちらっと思い浮かべて、モリーがまだ寝ているように、ぼくの妻も寝ていると呟いてみる。耳を澄ますと窓ガラス越しに小鳥のさえずりが小さく聞こえている。まだ朝が始まらない。もう少しすると子供達が通学で、ぼくの家の周りを通り過ぎていく。斜め後ろのYさん宅は朝早くに出ていく。その車の音を妻はまどろみの中で聴くが決して起きようとしない。まどろんでいる時間が彼女には最高らしい。ぼくは目覚めて、そうっと起き出して、明かりをつけずに部屋の中にぼんやりしている時間が最高だ。二人で簡単な朝食を食べるまでの、何もしない時間を満喫している。