開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

「ペールギュント」読書会

古今東西、縦横無尽という言葉がある。本のある生活をしている人の心の中はそれほど広く自由だと思う。時代や国に縛られず、ある時間と空間に固定されることがない精神で毎日を過ごしている人の多くには読書習慣がある。たとえわずかな時間でも、本の世界に住んでいられるのは、至福であると思う。そう感じている人たちが読書会に集う。ただ雑談するだけでも上手くいけば、というのは自分だけが喋らないだけの自制心をお互い持つなら、丁々発止となることもある。それが感動した本の話になると、当代一流の作家という話題提供者がいて物語の登場人物の話を聞いて、自分も一緒に見てきたように話したり出来るのだ。先日の野露読書会では、イプセンの「ペールギュント」をとりあげた。主人公のペールギュントは、ノルウェーの山村で生まれたが早くに呑んだくれの父を亡くしやがて母もなくなると、ヨーロッパの果てはトルコや地中海に面するモロッコやエジプトまでを舞台に、貿易商人や預言者歴史学者となって駆け巡る。まさに古今東西、縦横無尽という言葉のぴったりの流浪人生を送る。村では母親を困らす大ボラ吹きだったが、村を出ると野心家の彼は独学で学問を身につけ、自分を信じて世界を渡り歩いたのだ。自信過剰なほどの彼は、根っから女にはモテた。最初は村で目立った地主の娘イングリから始まって、移民の娘ソールヴェイ、トロル国王の娘「緑衣の女」、アラビア人首長の娘アニトラと女性遍歴を重ねる。「ペールギュント」は戯曲である。同じ戯曲の「ファウスト」ほどの深みはなく、上演で演奏されるグリーグの「ペールギュント」の方が有名ではある。小説ではないのだからリアルな筋書きを追うことはできず、舞台を想像しながら読む必要がある。でもトロルなどの北欧民話で馴染みの妖怪などは、幻想的な世界に読者を引き込んで舞台での動きを想像力で見る楽しみを提供する。幻想域も含めて壮大な自分探し劇が、読書会を通してメンバーに共有される機会になった。