開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

2022年、今年の収穫

それまでの小説中心の読書から学術書を一冊ずつ丁寧に読むようにしたのが、良い結果を生んだと思える。フロイトの「精神分析入門」は今から思うと、現代思想に関心のある人にとっては不可欠の本になると思う。ぼくにとっては自分の考えが立体的になった気がする。自分を分析の対象にして自分自身を自分の理論開発を通して精神的「病い」から解放する、生涯をかけた偉大な精神科医創始者フロイトだ。その影響力はイギリスの経済学や、フランスの人権思想の偉大さに匹敵すると思える。無意識の発見は芸術界にも波及し、シュール・レアリスムの芸術運動を生み出した。もちろん心理学プロパーでは、ユングアドラー河合隼雄などの深層心理学の道を開いている。ぼく個人は深層心理学から派生したトランスパーソナル心理学と日本仏教古来の唯識を融合した、岡野守也唯識心理学をサラリーマン時代に学んだことがある。今のぼくが「自分」という領域を守っているのは、フロイト以来の心理学の影響下にいまだにあることを示している。

次の学術書の収穫は現代にとんで、斎藤幸平の「人新世の資本論」だ。これは近年珍しくマルクス主義関連本でベストセラーとなった話題の本だ。革命運動から離れて経済学の研究に没頭した晩年のマルクスの、環境と資本の関係の研究成果を現代に甦らせたことで大きな反響を得たし、ぼく自身も未来に希望が持てる材料になった。彼の提唱する「潤沢な脱成長経済」は一つの思潮になり得ると思う。そして未来への希望といえば、柄谷行人である。「トランスクリティーク」と「世界史の構造」を続けて熟読したことで、マルクスを(世界発展の)可能性の中心に置き続けた思想家の確信を理解できたのも自信になった。

さて今年最大の収穫は、何と言ってもヘーゲルの再発見だ。マルクスサルトルヘーゲル弁証法を捨てることなく魅了された事情を理解できたと思う。日本の在野のヘーゲル研究家の牧野紀之と中井浩一を知ったことがぼくにとって、残りの人生の最大の支えになると思う。この歳でやっと自身のバイブルを持ったという感慨がある。