ようやく長編小説を読む習慣を取り戻すことができた。単行本四冊のうちの最初の一冊を今日読み終える。最終ページに読み始めの年月日がメモされているが、何と2017年7月12日となっているから読了に5年半かかっていることになる。2021年の8月27日のこのブログに、中座していたこの小説を再開したと書いているので、その時からも1年半はかかっている。2段組221ページは1冊でも長編なのに全部で4冊なのだ。プルーストを翻訳したような長いセンテンスに慣れるには時間がかかったが、慣れてしまうとスラスラ読める。先のブログにも書いたように、これは定年小説でもあるから、今の自分にはピッタリはまる内容になっている。青春を回想するのだが、ぼくの青春と大きく違うのはあの戦争が定年時と青春時を分断していることだ。だからこの小説の主人公たちは自分の死に直面せざるを得ないので、ぼくなんかとは比べられない試練を生きるわけだ。戦争によって切断されたところから、定年まで生き延びて、平和時であったら普通に送っただろう文化的放蕩をやってやろうという、抜きがたいK(主人公の同級生でサラリーマン)の欲望に感情移入することができる。プルーストの連想手法や多重的時間や夢想と日常の並列などは、ぼくの好みでもあるので味読する楽しみもあった。もし定年小説というジャンルがあるとしたらぼくは1位に、日本文学大賞受賞のこの作品を挙げるだろう。