この小説は、「老いの愉楽_『老人文学』の魅力」で紹介されていてすぐに読んだ。こんな小説があったのだ。学生運動が主題に含まれる小説は大江健三郎、村上春樹を始め、三田誠広、高橋和巳、柴田翔、庄司薫、倉橋由美子、藤原伊織、辻井 喬、桐野夏生、桐山襲などを読んできた。(野上弥生子「迷路」と加賀乙彦の「湿原」は読了できず。)黒井千次のものは知らなかった。「羽根と翼」は主人公が65歳と現在のぼくの年齢に一番近い。大企業の部長で定年退職後、学生の頃を回想する小説は今の自分にピッタリだった。全共闘より前の世代、60年安保の全学連より前の、日共六全協以後の世代の学生運動だった。学生運動といっても「血のメーデー事件」後の、労働歌やロシア民謡などを歌ってデモにも参加する程度で、マルクスは共産党宣言などがテキストみたいだった。だから反スタらしき雰囲気はまるで出てこない。でも小説としては一番面白かった。特にインテリ女性の登場がリアルで、主人公との言葉を介した格闘シーンは鬼気迫るものがあった。現在からマルクスを読むところに今の思潮と繋がる部分もあったが、むしろ登場人物は過去を断ち切りたいようだった。過去の亡霊を「殺す」と表現されていた。それは容易ではなく格闘なのが今のぼくに感じさせたのだと思う。早速「五月巡歴」を泉野図書館に予約した。