その時Aに何と言ったかをどんな断片でもいいから思い出そうと、昨日からずっと念じている。18歳で何が言えるのか、社会に出るには幸いにも大学進学はできそうだったのでまだ猶予はあった。親父は大工でいつも仕事をしている職人だった。サラリーマンや先生の家庭ではなかったので、家の外からの情報が少なく社交的な雰囲気がなく、将来何になりたいかを具体的に思い描くことができなかった。親戚にも出世したような人はいなかった。母方はもう貧乏な農家で閉ざされた田舎の村社会だった。将来に向かって18の頃に言えることがあるすれば、高校1年から世界文学全集を読み始めて得たロマンチックな、すでに古くなっている知識の数々だと思える。トルストイの人道主義や白樺派の新しき村などが影響している可能性もある。ゲーテやロマンロランの教養や修行遍歴が影響しているかもしれない。あるいは、カミユやマルローのような無信仰的な行動主義が影響しているかもしれない。とにかく高校生が発想し得るような世界で、夢のようなカオスの中で情熱的な生き方を何かしらの言葉でAに語ったのだと思う。その時代の中心的な「精神」からは遠くても、高校生なりに時代を感じていたのではあるまいか。