開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

クープランのハープシコード

クープランハープシコードをストーブを焚いた部屋で、リクライニングシートに深々と腰掛けて聴いていると、しばらくしてヨーロッパ中世の果てしなく物憂い午後の「静寂」に誘われていくようだった。それまでの積み重なって鬱屈としていたものが溶けていくのが体感された。こんな「快楽」がまだぼくに残されていたのかと定年後の人生で得をした気分になった。生きていて良かったと思えるひと時がこんなにも簡単に手に入るとは意外でさえあった。ふと同じような幸福な気分になった時のことが蘇ってきた、、、随分と昔だ。高校に入って2年目の春を迎えようとしていた頃だと思う。ぼくは世界文学全集に読みふけって既に何事かをつかんだような気になり、人生の悩み事を相談に現国の先生が相談窓口になっている学生課によく出入りしていた。そこには英文の老女性教師もいて、その先生がなんとぼくにコーヒーを淹れてくれたのだ。静かに飲みほすと「もう一杯いかがですか?」と勧められた。その時の厳粛な時間が今クープランハープシコードを聴いている時間と似ている気がした。