開界録2019

ぼくの生きている実人生に架けられている「謎」を知ることから、一人で闘う階級闘争へ。

公共性の小説

読書会のメンバーからの紹介で、李清俊の「虫の話」を読む。(頭木弘樹編「絶望図書館」所収。)最愛の息子を誘拐殺人で失った妻の夫が、妻の絶望を理解しようとする小説で、彼女は熱心な隣人のキリスト信者の「勧誘」をごまかしとして拒否して自死する。このような書かずには救われない小説をぼくは文学として認める。それは小説はエンターテインメントだとする見方と対立する。ぼくは小説を娯楽として読むならそれでいいと思う。ことさら読書会で、つまり小集団で読む必要はない。小集団を公共性の最小単位だとすると、「虫の話」のような小説を公共性の小説と呼びたい。そして先ごろ読んだ黒井千次の「群棲」も、書かずには救われない小説とまでではないが、現代の都会人の群像を活写している点で、公共性な小説だと思う。