定年から早10年。62歳の誕生日まで延長で働いていたが、70歳の誕生日でまる8年無職で過ごした。もうすっかり働かない生活に慣れているはずなのに、近ごろまた社会的に何の役にもたっていない事に引け目を感じるようになった。どうしてだろうとどうしても考えてしまう。毎日の時間が緊張感なく過ぎていくことに抵抗を感じる。これまでは平気だったし、定年退職者の特権のようにも考えていた。母親のケアに毎日近くの実家に顔出しはしているし、公民館の読書会活動は県の副会長職にもなってそれなりに充実はしている。趣味のテニスも向上心を失わずに続けている。何が欠けているのだろうか? 思い当たるのが「仕事」である。「仕事」をする必要があるのだ。趣味は仕事にならない。読書会も仕事にはならないのだろう。だったら読むだけではなく書いたらどうだろう。小説家になるならないは別にして小説を書いたらどうだろう。批評家になるならないは別にして、批評文や評論文を書いたらどうだろう。書くとなると「仕事」になりそうだ。いや、書いただけではダメで、発表しなければならない。それもネットではダメで、リアル世界つまり出版界に発表しなければならない。客観的な評価者のいる場所に評価の門をくぐらなければならない。そうでなければ「仕事」をしたことにはならない。これは動かしがたい理屈だろう。おそらく今自分に立ち現れている現実はその「仕事」に着手することに思える。